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志度湾に吹く風が、食欲をそそる磯の香りを運んできた。発生源へ歩を進めると、海沿いの路地の先にカキ焼きの店が現れた。そしてさらに隣にもカキ焼きの店がある。酒を片手に冬の味覚を堪能する人たち。ここ数年、大盛況という志度湾産のカキを自分で焼いて食べる店をはしごしてみた。 ガササササ。客がカゴをひっくり返すと、黒光りした志度湾産のカキが鉄板の上に散った。湯気とともに香ばしいにおいがわき上がる。熱さに負けたカキが口を開く。すかさずバターやマヨネーズがのせられていく。 2月上旬の夕方、カキ焼き「わたなべ」は会社員や友人グループでにぎわっていた。壁には「持ち込み自由」の文字。酒や野菜、肉も持ち込める。テーブルにはレモン汁、焼き肉のたれ、タルタルソースなど20種類以上が並び、選び放題。元同僚と来たさぬき市の堀川真貴香さん(31)は「オリーブオイルが一番合います」とご満悦だ。 焼きカキ、カキ飯などが食べ放題で2時間2800円。店内を駆け回る店主の八村昭子さん(49)は「今年で13年目ですが、今年は特に多くの人が来てくれて、土日は予約でいっぱいです」と汗をぬぐう。 店のすぐ隣には「海鮮かき焼きかくれ家」がある。大衆酒場のような風情の「わたなべ」と違い、店内は高級な小料理屋のような落ち着きが広がる。 システムも対照的だ。食べ放題ではなく、カキ焼きに魚の造り、カキフライ、釜飯などがつくコース(3千円〜)が基本。持ち込みはできず、昼夜とも1日7組の完全予約制という。 カキは客自身で焼くが、店主の中村浩三さん(47)が焼き方を教えてくれる。まずカキの平らの面を下にして5分焼く。口が開き、海水が出てきたところでひっくり返し、さらに12、13分。ちょっとじれったい。「カキで『あたらない』ためには、質はもちろんやけど、じっくり焼くことが大事なんです」と中村さん。 こちらも5年前のオープン以来、年々客が増え、なかなか予約が取れない。中村さんは「全く違うタイプの店が隣同士にあるからこそ、お客さんの楽しみも広がるのでは」と話す。 志度湾のカキ養殖の歴史は古い。「香川県漁業史」によると、48年に生島湾とともに取り組みが始まり、55年ごろからは「讃岐カキ」の呼び名で阪神や名古屋へ出荷されるようになった。 両店とも自家でカキを養殖している。「かくれ家」の場合、約1キロ沖合に毎年3月、ホタテの殻にカキの稚貝をつけて海に沈め、半年で大人のカキになる。志度湾は川の水が豊富に流れ込み、潮の流れが穏やかでカキの生育に適しているという。 今が旬のカキも「わたなべ」は3月末、「かくれ家」は15日で今季の営業を終える。予約は急いだほうがいいが、焼く際はくれぐれも時間をかけて。(小野大輔)



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